奥又白から前穂高直登

teradaya2008-09-24


秋の晴天を狙って穂高にハイキング。一日有給休暇をとって1泊二日の山旅。
今回は、かつての岳人が越えた徳本峠を越えて上高地に入り、徳沢園にて一泊。翌日奥又白の谷からA沢を詰めて明神の岩稜上部を経由して前穂高に登る計画。皮の登山靴に帆布のクレッターザック、鳥打帽といういでたち。

9月23日(火)秋分の日
 前日雨が残ったが天気は回復傾向。夜行の「さわやか信州号」(毎回書くがまったくさわやかでない!)で島々で下車。満員の乗客のうち、ここで降りるのはただ一人。
 5:00、まだ暗い中、おにぎりを口にし島々谷へ。増水は思ったほどでなくほっとする。ヘッドランプをつけて暗い林道を歩くと、数台の軽トラとバイクが抜いていった。どうやら岩魚釣りの人たちである。山道となるといたるところで木道やソマ道が壊れている。昨秋ようやく修復なったとの話の通り、かなり痛んだようである。誰もいない谷をひとり行く。途中、炭焼き釜跡や戦国時代に追われてなくなった武家の姫様の碑などの脇を通る。この谷は昔からの山越えの通路である。

 

 8:15、岩魚止小屋に到着。今は誰もいない様子。少し休んでまた出発。これから徐々に傾斜が増してくる。北向きに進路を変えて谷を詰める。熊笹の道が続く。途中終わりつつある花や高山蝶の写真を撮りのんびりいくが、ひとりだとつい足が急ぐ。
 10:45、小さな小屋が目に入ると徳本峠に到着。絶好の天気で眼前に明神を従えた穂高連峰が見える。右端の前穂がひときわ美しい。かつての岳人と同じ気持ちを味わって大休止。標高2150m。小屋番は感じのいいご夫婦である。今度はぜひこのランプの宿にも泊まってみたいところ。ザックをみて「片桐ですね」といわれ、ひとしきりこの老舗の話題で話し込む。霞沢岳への新道ができており、行ってみたいが、今回は明日にそなえて体力を温存。展望台に行き、きのこや紅葉をめでてから11:30に上高地にむけて降り始める。

  

 数名の登山者とすれ違い、12:35に上高地に降り立つ。ご夫婦のハイカーが多く、うらやましい。時間が早すぎるので明神の写真を撮り撮りのんびりと徳沢に向かう。13:40にハルニレの木が涼しげな徳沢園到着。ここはいつも美しい。

 

 チェックインして、お風呂(!)をいただき、のんびりと本など読んでくつろぐ。夕食は肉と岩魚の豪華版。同宿の方たちとしばし歓談。ここは一生懸命によい山宿にしようとする気合を感じる。おまけに若女将はとても美人である。しかし寝不足のため早めにカーテンで仕切られた1畳の個室にて就寝。

9月24日(水)
 朝5時発。暗い中歩き始める。夜半に雨が降ったようで雲がかかっているが、頭上はすでに晴れており回復していくものと判断。予定通りいくこととする。新村橋を渡り右岸を行き、大きな涸れた出合から奥又白谷に入る。振り返ると蝶ヶ岳の上に赤く光る雲と細い月。屏風の頭に向かうコースを右に見送り、松高ルンゼと本谷との間の尾根につけられた中畑新道を行くが、手足総動員のジャングルジム。雨露でびしょびしょになりつつハゼの木を避けて急登。学生時代に岩登りに来て以来であるが、不思議と景色は覚えている。再び松高ルンゼからの道に合流して一服。天気はどんどん回復し、前穂東壁がクリアに見渡せる。さらに登り左に小尾根を越えると目の前が奥又白の池。7:30到着。
 ここで初老の先行者がいたことがわかった。昨晩同宿で昼間から眠っていた方。なんでも3時半に出てきたそうで、どおりでクモの巣にかからなかったのだと得心。昨年途中断念したA沢からの前穂を再トライするとのこと。こんなマイナーな道なきルートでかち合うとはちょっと驚き。
 7:55、先行者に続き出発。まずは奥又尾根に沿って登り、尾根上部の切れ目(踏替点)を目指す。眼下に又白池と上高地が美しい。岩屑の積み重なった道なので落石に注意しながら続く。8:40狭い踏替点着。下降用の懸垂支点有り。向こう側がA沢で、さらにひどい岩だらけの谷。複雑な地形であるがルート全体が良く見えるので今日は迷いようがない。それにしてもまさに岩の殿堂。今年はもう雪渓はほとんど消えている。 

 
 しばし写真を撮りあったりした後、8:55に先行する。きわめて不安定なガレ場で、大きな岩がぐらぐら動く。安定した岩を伝いつつ、時々落石を起こしながら進む。この谷は前穂東壁登攀後の下降路であるが、大人数ではとても通りたくない。スピードを上げてこの沢の登りつく明神第一尾根鞍部を目指す。9:20に鞍部到着。やれやれである。下降用の懸垂支点や緑や赤のテープが目印につけられている。はるか下方には奥又白の池も見える。

     
①踏替点からA沢を見上げる           ②ガレ場のA沢から下方を見下ろす。画面右上のコルが踏替点。

概念図(改訂「日本の岩場」(白山書房)より編集)
③A沢下降点からA沢。はるか下に奥又池と上高地
 このA沢下降点(第一尾根鞍部)は明神岳から前穂につながる主稜からほんの10mほど離れたところであり、踏跡をたどるとすぐに主稜の明瞭なトレースに合流できる。ここからは一般道ではないものの容易な岩稜歩きで20分ほどで前穂山頂に到着(9:40)。秋晴れの中、槍穂高から遠く白馬方面、白山、焼岳、乗鞍、木曾御岳、南アの峰々の肩に富士、八ヶ岳浅間山と大展望を楽しむ。
 風を避けてお弁当のおにぎりを食べて大休止。若い娘さんに頼まれ写真を撮ってあげる。大変きれいな山屋さんであるが、5時半に上高地を発って登ってきたとのことで元気いっぱいである。山の名などを聞かれ、展望をともに楽しむ。明神方面の後続の方を気にしていると、ようやく稜線に姿を発見し、一安心。もうリタイヤされて何年か経っているようであったが、その気合に感服。

 10:25、山頂直下でその方に祝福を述べて、下山開始。くだんの美女もほぼ同時。足さばきも見事でどんどん追い抜いて降りていく。自分はしばし吊尾根方面に寄り道して2年前にこけたあたりを見てからUターンし、10:40分岐から重太郎新道に入る。今年は軽やかに下山である。カモシカの踊り場で岳沢方面の写真を撮っていると、再び彼女に追いつかれる。なかなかの健脚である。山はまだ初めて間がないとのことで、奥穂南稜のトリコニーやコブ尾根の話をする(年寄りな私)。再び写真を撮って差し上げ、先行する。何も建物のなくなった岳沢ヒュッテ跡をさびしく通過し、さすがに疲れてきた足を動かし、13:25に上高地に降り立った。しばし休憩していると、かの美女は再び追いついてきてびっくり。疲れも見せない元気さをうらやましく思いながらとことこ歩きながら話すと、上高地の宿にお勤めとのこと。河童橋で一緒に写真を撮ってもらい、お元気でとバスターミナルでお別れ。お土産にはクラシックな山行の仕上げに「雷鳥の里」。

 2年前の奥穂南稜は http://d.hatena.ne.jp/teradaya/20060928#1159521301

 今日はなにやら幸せな一日であった。
 14:00の島々行きに乗り、あずさで帰京。都内で山の会の例会に顔をだしてから帰宅。

          

[コースタイム]
9/23
島々  5:00 (725m)
林道終点 6:15
岩魚止小屋 8:15/8:30 (1280m)
徳本峠  10:45/11:30 (2135m)
明神出合  12:35 (1550m)
徳沢園 13:40 (1560m)

9/24
徳沢園 5:00 (1560m)
新村橋 5:20
奥又白 7:30/7:55 (2480m)
踏替点 8:40/8:55 (2790m)
A沢下降点 9:20 (2930m)
穂高 9:40/10:25 (3090m)
岳沢ヒュッテ跡 12:10 (2180m)
上高地岳沢出合 13:25/13:35 (1510m)
バス停 13:45 (1500m)

[延べ登高高度]初日1760m、2日目1510m
[延べ下降高度]初日920m、2日目1570m
[水平距離]初日20.9km、2日目11.2km